「飛影、コレやらないか?」
そう言って躯が見せたのは線香花火だった。
「どうしたんだ・・・それは・・・」
「帰る時に螢子にもらったんだ。やろうぜ?」
「花火はもう見ただろ。」
「何度見たっていいだろ。飛影、火。」
「俺はマッチじゃないぞ・・・」
「お前の火ならこの花火も綺麗に燃えるだろ・・・」
「ふん・・・」
俺は指先にマッチほどの炎を放出し、躯の持つ線香花火に火を灯した。
先端からパチパチと小さな火花を飛び散らせ、暗闇にほのかな明かりを付けた様だった。
「飛影、早くしないと消えるぞ。早く自分のに火移せ。」
「ああ・・・」
躯の持つ花火から火のお裾分け。
それから数十秒もしないうちに、躯の線香花火は力を無くし、先端がポトリと落ちた。
ついさっきまで勢いよく火花を散らしていた花火も、最後はあっけないものだ。
炎を操る身としてはどこか共感を覚える。
「結構早かったな。今度はもっと長くいきたいな。」
そう言ってもう一本取り出し、俺の花火から火をもらっている。
「小さくても綺麗だな。」
「ああ・・・」
「さっき見た大きくて迫力のある花火もいいが、こういう小さい花火も悪くないな。」
まるでお前みたいだな。
・・・悪かったな・・・小さくて。
「でかい花火は首を上げないと見えないからな。首が痛くなる。」
「知るか。」
「お前、筋肉痛一日おいてから来るタイプだろ?」
「それは黄泉だ。」
いつもの様に横柄でそっけない会話の応酬。
それはいつもとさして変わらない事ではあるのだが。
「もしかして・・・連れ回したのが迷惑だったか・・・?」
「・・・・・」
儚い線香花火に照らされた儚くて綺麗で寂しげな顔の躯。
自分のわがままは飛影には迷惑でしか無いのかもしれない。
無表情か怒った顔かを行き来する飛影の顔から、その答えを読み解くことは難しい。
「二人で・・・」
「ん・・・?」
「二人だけで見たかった。」
「飛影・・・」
線香花火の小さな火花の様な小さい声で、打ち上げ花火の様の大きく体にも心にも響く言葉。
たった一言にしか過ぎないが、飛影が言うなら至福の喜びを与えてくれる一言だ。
「なぁ、飛影。」
「何だ?」
「実は螢子に懸けに負けたツケを払わなきゃいけないんだが・・・」
「払えばいいだろ。言っておくが俺は一文も出さんからな。」
「誰もお前に金策は頼まねぇよ。そうじゃなくて・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・の答えを聞きたいんだそうだ・・・重ねて言うがオレが聞きたいんじゃないからな!」
「なっ・・・!大体最初は金を賭けたんだろ!だったら金で清算しろ!!」
「仕方がないだろ!螢子が聞けって言ったんだ!オレじゃない!」
「くだらん!大体、貴様俺のたこ焼き一番たこのでかいのを食いやがって!」
「知るかよ!第一分かるワケないだろ!どれがどの大きさかなんて!」
「邪眼でちゃんとチェックしたからな!」
「邪眼をそんな事に使うな!」
「俺の邪眼をどう使おうと俺の勝手だ!」
「たこの事はいいからさっさと答えろ!」
「お前の方が綺麗だったなんて言えるか!!・・・あっ・・・!」
「・・・お前な・・・そんな事を螢子に言えると思ってるのか!?何で花火って言わないんだよ!」
「うっ、うるさい!お前が言えって言ったから言ってやったんだ!この俺が褒めてやったんだから
黙って聞いてろ!第一賭けに負けるお前が悪いんだからな!!」
「オレのせいにするな!コレでも喰らえ!」
「なっ!ねずみ花火を投げるな!!」
螢「躯さん早く教えてくれないかなー?」
幽「そういやあん時何て言ったんだよお前。」
螢「ん?それはねー・・・」
花火と躯さんどっちが綺麗?
今回はメニュー絵の女の子シリーズで浴衣の螢子ちゃんを描いてたら思いついたお話しです。
夏なのでね、お祭りでございますよお祭り。
ちなみに地元ではあまり縁日と言うものを見かけません。桜の季節にはやりますが。
御存知の方もいてくれると嬉しいのですが、秋田の夏と言えば竿灯でございます。それが終わると
大曲の花火大会です。花火大会に行った事はありませんが、部屋の電気を消してテレビで見る花火大会も
なかなか乙なモンですよ?